公共工事を国、地方公共団体から直接請け負う建設業者は、経営事項審査を必ず受けなければなりません。
経営事項審査を受けることで、はじめて公共工事の入札に参加することができます。さらに、民間工事の場合でも、経営事項審査を受けていることを発注の条件としていることもあります。
経営事項審査は、建設業としての自社の現状を客観的に把握でき、受注機会の拡大などで、経営安定や売上伸長にとても有効です。

経営事項審査は、公共工事受注の第一歩

建設業者の施工能力、財務の健全性、技術力等を判断するための資料として、その企業の完成工事高、財務状況、技術者数などの項目(客観的事項)を総合的に評価することを経営事項審査といいます。
公共工事を国、地方公共団体から直接請け負う(元請)建設業者は、経営事項審査を必ず受ける必要があります(建設業法第27条の23)。
公共工事の入札に参加する建設業者は、発注者である官庁・地方公共団体・独立行政法人等から、「総合評定値通知書」の提出を求められるため、必ず、経営事項審査(経審)を受けて、総合評定値通知書を取得しなければなりません。

公共工事を発注者(国、地方公共団体)から直接請け負おうとする建設業者は建設業許可を有し、許可を受けた業種の中から、入札に参加したい公共工事の業種等を勘案し、業種ごとに受審します。
審査基準日(決算日)時点で許可を有していなくても、許可は経営事項審査の申請時点で許可を有していれば、受審できます。

建設業者は、総合評定値通知書の有効期間(決算日から1年7カ月)が切れないように、毎年の決算以降の各手続を確実に行わなければなりません。

官公庁は、数多くの建設業者の規模や業種に見合った工事を発注するため、業種ごとの客観的な評価を必要とします。さらに、公共工事は税金を原資としているため、特に慎重に発注しなければならず、工事途中に倒産リスクのある経営状態の悪い建設業者の入札参加排除や技術・経験が不足による施工不良をなくしたいと考えることは、当然ではないかと思います。
そこで、官公庁は、総合評定値通知書に記載されている総合評定値を基準にして、建設業者のランク付けを行い、ランクに応じて入札に参加できる公共工事の発注価格の範囲が決まります。

こういった理由から、公共工事を請け負う要件として、建設業者に経営事項審査を受けることが求められています。

公共工事に限らず、民間工事においても、上記と同様のリスクを避けるために、経営事項審査を受けていることを請負の条件とする場合があり、経営事項審査を受けることは、許可を取得することと同様に重要です。

経営事項審査の流れ

以下は、大阪府の経営事項審査申請の手引きを基にしています。

1決算変更届の作成事業年度終了後、4 か月以内に消費税抜き(免税事業者であった期間は原則消費税込み)で関係書類を作成
2経営状況分析の申請登録経営状況分析機関に直接申請し、経営状況分析結果通知書を受領
「決算変更届の提出」と「経営状況分析申請」はどちらが先でも構いませんが、決算変更届提出後に、経営状況分析申請の際に修正を受けてた場合、決算変更届の訂正が必要となるので、経営状況分析申請を先にするのがおすすめです
3経営事項審査申請書類の作成経営事項審査申請に必要な書類(工事経歴書上位3件の契約書等、技術職員の恒常的雇用関係を証明する書類、社会保険加入証明書などの写し)を作成、整理します
4経営事項審査の受審日を予約大阪府建築振興課(咲洲庁舎(さきしまコスモタワー)1 階)申請会場の経営事項審査予約簿に受審希望日・時間帯を記入、または、FAX(様式あり)にて予約
5決算変更届の提出大阪府へ提出(下記の経営事項審査の申請時に提出することも可能です)
6経営事項審査の申請予約日の予約時間帯に、提出書類・添付書類・提示書類・本人確認書類を申請会場に持参して受審
7経営規模等評価結果・総合評定値通知書を受領申請書を受理し、補正が解消された日から土日・祝日を含む 22 日程度で、郵送されます。
審査会場での手渡しも可能

経営事項審査結果の有効期間

公共工事について発注者と請負契約を締結できるのは、結果通知書を受け取った後、その経営事項審査の審査基準日から1年7か月までです。
※審査の基準日:申請する日の直前の事業年度の終了日(決算日)

経営事項審査の評価項目の内容

経営事項審査の評価は、「経営規模」と「経営状況」の大きく2つです。
「経営規模」は 建設業の許可行政庁が、「経営状況」は 民間の登録経営状況分析機関が それぞれ行います。

経営規模の評価項目

評価項目記号
完成工事高X1
自己資本額および平均利益額X2
技術職員数および元請完成工事高Z
その他審査項目(社会性等)(20項目に細分)W

経営状況の評価項目

評価項目経営指標記号
負荷抵抗力純支払利息比率(x1)Y
負債回転期間(x2)
収益性・効率性総資本売上総利益率(x3)
売上高経常利益率(x4)
財政健全性自己資本対固定資産比率(x5)
自己資本比率(x6)
絶対的力量営業キャッシュフロー(x7)
利益剰余金(x8)

総合評定値の算出

経営規模、経営状況の各項目の評点に一定のウェイトを掛けた数値が「総合評定値(P)」となります。算出式は、次のようになります。

(P)=0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)

総合評定値は、業種ごとの評定となりますので、複数の業種について、審査を受けることができます。
業種ごとの評点の算出には、
完成工事高(X1)技術職員および元請完成工事高(Z)が、業種ごとの評点が加算されます。
自己資本および平均利益額(X2)と経営状況(Y)とその他審査項目(W)は、同一の点数です。

項目ごとの評定値の最大・最小値は下のとおりです。

完成工事高
X1
自己資本・平均利益額
X2
経営状況
Y
技術職員・元請完成工事高
Z
その他審査項目
W
総合評定
P
最高点2,3092,2801,5952,4412,0612,158
最低点3974540456-1,995-18

※社会性の審査である「その他審査項目(W)」の評点は、マイナスになる場合があり、総合評定値全体の足を引っ張る影響が大きいです。
・労働福祉の状況(雇用保険、健康保険、厚生年金保険の未加入)
  社会保険に加入しない限り、評点アップは望めません
・建設業の営業継続の状況(民事再生、会社更生法の適用)
  企業再生中は公共受注の可能性は低くなります
・法令遵守の状況(営業停止処分、指示処分あり)
  説明するまでもないですね

経営状況分析指標

総合評定値のうちの20%にあたる経営状況分析指標(Y)について、意味合いを見てみます。

分析指数算出上限値
下限値
意味
負荷抵抗力
純支払利息比率(x1)(支払利息ー受取利息配当金)/売上高×1005.1%
-0.3%
売上高に対する純粋な支払利息の比率
低いほどよい
負債回転期間(x2)(流動負債+固定負債)/(売上高÷12)18.0ヶ月
0.9ヶ月
負債総額が月商の何カ月分に相当するかの比率
低いほど良い
収益性・効率性
総資本売上総利益率(x3)売上総利益/総資本(2期平均)×10063.6%
6.5%
投下した総資本に対する売上総利益の状況の比率
高いほどよい
売上高経常利益率(x4)経常利益/売上高×1005.1%
-8.5%
企業の経常的経営活動による収益力の比率
高いほど良い
財政健全性
自己資本対固定資産比率(x5)自己資本/固定資産×100350%
-76.5%
設備投資などの固定資産がどの程度自己資本で調達されているかの比率
高いほどよい
自己資本比率(x6)自己資本/総資本×10068.5%
-68.6%
資本蓄積の度合いの比率
高いほどよい
絶対的力量
営業キャッシュフロー(x7)営業キャッシュフロー(2期平均)/100,000
※額は千円単位
15.0億円
-10.0億円
企業の営業活動により生じたキャッシュの増減比率
高いほどよい
利益剰余金(x8)利益剰余金/100,000
※額は千円単位
100.0億円
-3.0億円
企業の営業活動により蓄積された利益のストックの比率
高いほどよい

経営状況分析 各指標の評点をアップするには?

各指標の評点アップの考え方は以下のようになると思います。
ここに挙げたものは、一般論ですので、経営者の皆さんにとっては、当然のことばかりかもしれません。

純支払利息比率(x1) (より低くする)
 借入金の返済、増資による資金調達、低金利に公的資金への借り換えなどにより、実質金利を減額する

負債回転率(x2) (より低くする)
 定期預金などの解約や遊休資産の売却、過剰在庫削減により、負債を減らして回転期間を早くする

総資本売上総利益率(x3) (より高くする)
 定期預金などの解約や遊休資産の売却、減価償却などして、総資本を減少させる
 また、売上原価率の低下、IT活用での積算ミス防止で在庫管理を効率化することなどにより、売上総利益(粗利益)を増加させる

売上高経常利益率(x4) (より高くする)
 売上原価率の抑制、販管費・営業外費用(支払利息)の削減により、経常利益を上げる

自己資本対固定資産比率(x5) (より高くする)
 増資純利益の継続的積み増しにより、自己資本を充実
 遊休資産の処分により、固定資産を削減

自己資本比率(x6) (より高くする)
 増資純利益の継続的積み増し、月次の財政状態把握による赤字決算回避による自己資本を充実する
 遊休資産の処分、過剰在庫削減、仮払金などの仮勘定科目の精算による総資本を減少させる(こちらが実効性高い)

営業キャッシュフロー(x7) (より高くする)
 経常利益・減価償却は増大の方向へ、売掛債権・棚卸資産は減少の方向へ バランスよく見直す

利益剰余金(x8) (より高くする)
 予算管理により高利益経営を図り、利益剰余金を増額する

中小建設業者にとって、重要な指標は4つです

上記のx1からx8の8つの指標は、Y点への影響度合いには、差があります。

中でも、重要なのは、Y点影響度が大きい順に
純支払利息比率(x1)、総資本売上総利益率(x3)、自己資本比率(x6)、負債回転率(x2)です。

経営状況分析申請に必要な書類

通常、初回申請時には決算報告書等を3期分提出し、翌年2回目からの申請時には1期分の決算報告書の提出となる場合がほとんどのため、分析機関を毎回変更するのは避けた方がよいです。

【書類の例】

  1. 経営状況分析申請書(各分析機関のホームページ等より様式を確認)
  2. 建設業許可通知書の写し又は建設業許可証明書の写し
  3. 当期の財務諸表(貸借対照表・損益計算書・兼業事業売上原価報告書)
    法人の場合、完成工事原価報告書・株主資本等変動計算書・注記表も
    兼業がある場合、「兼業事業売上原価報告書」も
    ※はじめて申請する分析機関の場合、前期分と前々期分も
  4. 当期の減価償却実施額の確認書類
    法人:法人税申告書(別表16(1)、(2)、(4)、(7)、(8)等)
    個人:青色申告決算書の写し又は収支内訳書一式(白色申告用)の写し
    ※はじめて申請する分析機関の場合、前期分も
  5. 郵便振替払込受付証明書(オンライン決済の場合、不要)

経営規模等評価申請の必要書類

大阪府知事許可の場合で記載しています。

提出書類

  1. 経営規模等評価申請書・総合評定値請求書
  2. 工事種類別完成工事高・工事種類別元請完成工事高(別紙1)
  3. 技術職員名簿(別紙2)
  4. その他審査項目(別紙3)
  5. 工事経歴書(様式第2号の2)
  6. 工事経歴書に記載した工事の請負契約書または注文書・請書などの写し
    (業種ごとに上位記載の3件分/各提出先により異なるため、要確認)
  7. 技術職員のうち国家資格者の免状等
  8. 技術者職員名簿に記載の職員の在籍状況確認書類
    (社会保険被保険者証及び社会保険被保険者標準報酬額決定通知書、源泉徴収簿など)
  9. 建設機械の保有状況一覧表と各建設機械に関する売買契約書等、特定自主検査記録表、写真等
  10. 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等に基づく基準適合一般事業主認定通知書の写し
  11. 経営状況分析結果通知書

提示書類

  1. 建設業許可通知書または許可証明書
  2. 建設業許可申請書の副本一式
  3. 決算変更届出書(免税事業者以外は消費税抜きのもの)
  4. 変更届出書(代表者、技術者等の変更時提出したもの)
  5. 前年度の経営規模等評価申請書一式及び審査結果通知書(前年度申請した場合)
  6. 確定申告書控一式(法人税または所得税、消費税及び地方消費税)(完成工事高2年平均の場合は2年分、3年平均の場合は3年分。)
  7. 「その他審査項目」に係る各種証明書類
    • 労働保険概算・確定保険料申告書又は労働保険組合からの納入通知書と保険料納入分の領収書
    • 健康保険・厚生年金保険それぞれの保険料納入告知額・納入済額通知書等
    • 全国建設工事業国民健康保険組合等の建設国保に加入の場合の事務所名の記載のある建設国保の保険証
      (技術職員全員分)
    • 独立行政法人勤労者退職金共済機構中小企業退職金共済事業本部の大阪府支部発行の建設業退職金共済事業加入・履行証明書(経営事項審査用)の写し
    • 中小企業退職金共済制度又は特定退職金共済団体制度への加入証明書等
    • (公財)建設業福祉共済団等又は(一社)全国労働保険事務組合連合会の労働災害補償制度への加入証明書
    • 国、特殊法人、地方公共団体等との間に防災活動に関する協定を締結している場合は、防災協定書
    • 会計監査人設置会社及び会計参与設置会社は、履歴事項全部証明書等

令和5年1月1日改正『その他社会性』

令和5年1月1日に審査項目『その他社会性』について、改正が行われました。
下記を参照してください。

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